猫を題材にした小説随筆や猫好き作家をご紹介
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村上春樹「人喰い猫」
「村上春樹全作品1979~1989 第8巻 短編集Ⅲ」を借りた。
「人喰い猫」という作品がある。以下、本文より抜粋。
「 港で新聞を買ったら、三匹の猫に食べられてしまった老婦人の話が載っていた。
アテネ近郊の小さな町での出来事である。死んだ婦人は七十歳で、ひとり暮らしだった。
アパートの一室で、三匹の猫と一緒にひっそりと暮していたのだ。」
「 窓もドアもしめっきりになっていたから、飼主が死んでしまうと、猫たちは外に出ることもできなかった。(略)
あいにく猫には冷蔵庫の扉を開ける才覚はない。
それで、すっかり腹を減らせた猫たちは(以下、略)」
似たような話を深夜のバラエティ番組で聞いた事がある。
ネプチューンの名倉と次長課長の河本がレギュラーのトーク番組。
居酒屋でゲストに話を聞くといった内容で、
元刑事でTVにも良く出ている男性(顔は覚えているが、名前が分からない)が、「阿部定事件」のような実話を紹介していた。
一人暮らしの男性が猫を相手に晩酌をしている際、急性アルコール中毒か何かで急死した。
男性は奇妙な晩酌をしていて…以下、うろ覚えなのと自主規制(笑)。
阿部定、と言えば符丁のようなものだがそれで大体何のことか想像がつくかというと、若い方には分からない語彙になっているのだろうけど。
話を村上春樹作品に戻す。
この短編の主人公はギリシャの小さな島に滞在中の「僕」と彼よりも十歳若いイズミという女性。
猫好きな春樹さんのことであるから、サントリーニ島かミコノス島だろうか?
「 つい二ヵ月前まで、僕は女房と四歳になる息子と三人で、鵜ノ木にある3LDKのマンションに暮していたのだ。」
特に家族との生活に不満があったわけでもない「僕」は、仕事の打ち合わせの席でイズミと知り合い、やがて関係を持った。
双方の配偶者の知るところとなり、「僕」の妻は息子を連れて実家に帰り、イズミの夫も出て行った。
「私、昔から一度ギリシャに行きたかったの。」というイズミと共に、「僕」はギリシャへと旅立つ。
本作品はほぼ、ギリシャでの生活を描写している。
「どこからか数匹の蜂がやってきて、前の客がこぼしていったジャムを忙しそうになめまわしていた。」
「『でもその猫たちはそのあとどうなったのかしら?』(略)
『知らない。それについては何も書いてないもの』(略)
『私が知りたいのはね』と彼女は(略)言った。
『その猫たちが、いったいどんな目にあわされたということなのよ。(略)』
僕はテーブルの上の蜂をながめながらそれについて少し考えてみた。
懸命にジャムをなめつづける勤勉な蜂たちの姿と、老婦人の死体を貪る三匹の猫たちの姿を頭の中でかさねあわせてみた。」
「『私がその話を聞いて思い出すのは、
中学に入ってすぐのときに聞かされたカソリックの講話よ。(略)
私がいちばんよく覚えているのは――(略)
猫と一緒に無人島に流れつく話』(略)
『船が難破して、あなたは無人島に流れつくの。
ボートに乗れたのはあなたと一匹の猫だけ。(略)』」
このカソリック教理というのは、実際にそういう話があるのか、
それとも春樹さんの創作なのか、気になるところだ。
「 僕らがその人喰い猫の話が載っている新聞を読んだのはそんなころだった。(略)
『猫といえば』と僕は人喰い猫の話が新聞に出た何日かあとでイズミに言った。
『子供のころに飼っていた猫が、変な消え方をしたことがあるんだ。』(略)
『うちで飼っていた三毛猫が庭でひとりで遊んでいた。
よく猫がやるだろう、ひとりでぴょんぴょん跳んだりはねたりするやつだよ。
猫はすごく興奮していて、僕が見ていることにもまったく気がつかないみたいだった。』」
「イズミはその話にはあまり興味を抱かなかったようだった。」という僕だが、
「『あなた子供のことを考える?』と彼女は僕に訊いた。」というイズミの反応は何だろう。
「『あなたの子供は大きくなったらあなたのことをきっとそんな風に思い出すんじゃないかしら』とイズミは言った。
『ある日、松の木の上に駆け上ったまま永遠に消えてしまった猫みたいに』」
「あれはなんていう楽器だっけな?『その男ゾルバ』の中でアンソニー・クインが演奏していたマンドリンに似た形の楽器――ブズキだ。」
「 僕は(略)鵜ノ木のマンションのことを考えた。
そこに残してきたレコード・コレクションのことを考えた。
僕はなかなか素晴らしいジャズ・レコードのコレクションを持っていたのだ。(略)
一九五〇年代から六〇年代初期にかけての白人のピアニストのレコードだった。
レニー・トリスターノからアル・ヘイグ、
あるいはクロード・ウィリアムソン、ルウ・レヴィー、ラス・フリーマン、アンドレ・プレヴィンといったピアニストたちのリーダー・アルバムを僕はこつこつと集めていった。(略)僕はそれらの古く黴臭いレコードが伝える独特のインティメートな空気を愛した。(略)
そしてもう二度とそんなレコードを聴くこともないだろう。」
「 僕は腹を減らせた猫たちのことを思った。(略)
三匹のしなやかな猫がマクベスの魔女みたいに僕の頭を取り囲んで、(略)
彼らの粗い舌先が僕の意識の柔らかな襞をなめた。」
春樹作品といえば随筆ぐらいしか読んだことがないが、海外文学の翻訳物を読んでいるかのような文体だ。
一人称が僕か私か俺か、をオースターやカーヴァー作品を翻訳する際にも気をつける(柴田元幸氏との共著「翻訳夜話」)という春樹さんだが、
この短編はやっぱり「僕」がぴったりだ。
サリンジャーでエズミという人物が登場する作品があったが、イズミという名前もそれからヒントを得たのだろうか?
ヘミングウェイを愛する春樹さんであるが、「雨の中の猫」を少し、思わせる。
森瑶子の「猫」ほど読者にヘミングウェイ作品を強く意識はさせないが、若い女性とかなり年上らしい男性のカップルが異国の地で滞在中だという設定、
女性のほうが猫の存在をより強く意識していて、男性が女性の精神の不安定さに気がついていない?という点が共通している。
猫の挿話や、ズブキのような音楽演奏が聞こえるなどのくだりで、
他の作家がこういう描写をすればもっと不気味な印象を受けるかもしれないが、村上作品ではあまりそういう感覚が無い?のが不思議だ。
春樹さん自身の解説より、抜粋。
「『人喰い猫』は(略)何処にも掲載せずに放っておいた作品である。(略)
時間を置いていつかもう一度書き直そうと思って引き出しに放り込んで、なんとなくそのままになっていたのだが、
全集刊行にあたって大幅に書き直してサルヴェージした。」
なお、Salvageは「 1 廃物利用[回収].2 利用できる廃物. 〈廃物を〉利用する
salvaged wastepaper (古紙の)再生紙」だそうです。
「人喰い猫」という作品がある。以下、本文より抜粋。
「 港で新聞を買ったら、三匹の猫に食べられてしまった老婦人の話が載っていた。
アテネ近郊の小さな町での出来事である。死んだ婦人は七十歳で、ひとり暮らしだった。
アパートの一室で、三匹の猫と一緒にひっそりと暮していたのだ。」
「 窓もドアもしめっきりになっていたから、飼主が死んでしまうと、猫たちは外に出ることもできなかった。(略)
あいにく猫には冷蔵庫の扉を開ける才覚はない。
それで、すっかり腹を減らせた猫たちは(以下、略)」
似たような話を深夜のバラエティ番組で聞いた事がある。
ネプチューンの名倉と次長課長の河本がレギュラーのトーク番組。
居酒屋でゲストに話を聞くといった内容で、
元刑事でTVにも良く出ている男性(顔は覚えているが、名前が分からない)が、「阿部定事件」のような実話を紹介していた。
一人暮らしの男性が猫を相手に晩酌をしている際、急性アルコール中毒か何かで急死した。
男性は奇妙な晩酌をしていて…以下、うろ覚えなのと自主規制(笑)。
阿部定、と言えば符丁のようなものだがそれで大体何のことか想像がつくかというと、若い方には分からない語彙になっているのだろうけど。
話を村上春樹作品に戻す。
この短編の主人公はギリシャの小さな島に滞在中の「僕」と彼よりも十歳若いイズミという女性。
猫好きな春樹さんのことであるから、サントリーニ島かミコノス島だろうか?
「 つい二ヵ月前まで、僕は女房と四歳になる息子と三人で、鵜ノ木にある3LDKのマンションに暮していたのだ。」
特に家族との生活に不満があったわけでもない「僕」は、仕事の打ち合わせの席でイズミと知り合い、やがて関係を持った。
双方の配偶者の知るところとなり、「僕」の妻は息子を連れて実家に帰り、イズミの夫も出て行った。
「私、昔から一度ギリシャに行きたかったの。」というイズミと共に、「僕」はギリシャへと旅立つ。
本作品はほぼ、ギリシャでの生活を描写している。
「どこからか数匹の蜂がやってきて、前の客がこぼしていったジャムを忙しそうになめまわしていた。」
「『でもその猫たちはそのあとどうなったのかしら?』(略)
『知らない。それについては何も書いてないもの』(略)
『私が知りたいのはね』と彼女は(略)言った。
『その猫たちが、いったいどんな目にあわされたということなのよ。(略)』
僕はテーブルの上の蜂をながめながらそれについて少し考えてみた。
懸命にジャムをなめつづける勤勉な蜂たちの姿と、老婦人の死体を貪る三匹の猫たちの姿を頭の中でかさねあわせてみた。」
「『私がその話を聞いて思い出すのは、
中学に入ってすぐのときに聞かされたカソリックの講話よ。(略)
私がいちばんよく覚えているのは――(略)
猫と一緒に無人島に流れつく話』(略)
『船が難破して、あなたは無人島に流れつくの。
ボートに乗れたのはあなたと一匹の猫だけ。(略)』」
このカソリック教理というのは、実際にそういう話があるのか、
それとも春樹さんの創作なのか、気になるところだ。
「 僕らがその人喰い猫の話が載っている新聞を読んだのはそんなころだった。(略)
『猫といえば』と僕は人喰い猫の話が新聞に出た何日かあとでイズミに言った。
『子供のころに飼っていた猫が、変な消え方をしたことがあるんだ。』(略)
『うちで飼っていた三毛猫が庭でひとりで遊んでいた。
よく猫がやるだろう、ひとりでぴょんぴょん跳んだりはねたりするやつだよ。
猫はすごく興奮していて、僕が見ていることにもまったく気がつかないみたいだった。』」
「イズミはその話にはあまり興味を抱かなかったようだった。」という僕だが、
「『あなた子供のことを考える?』と彼女は僕に訊いた。」というイズミの反応は何だろう。
「『あなたの子供は大きくなったらあなたのことをきっとそんな風に思い出すんじゃないかしら』とイズミは言った。
『ある日、松の木の上に駆け上ったまま永遠に消えてしまった猫みたいに』」
「あれはなんていう楽器だっけな?『その男ゾルバ』の中でアンソニー・クインが演奏していたマンドリンに似た形の楽器――ブズキだ。」
「 僕は(略)鵜ノ木のマンションのことを考えた。
そこに残してきたレコード・コレクションのことを考えた。
僕はなかなか素晴らしいジャズ・レコードのコレクションを持っていたのだ。(略)
一九五〇年代から六〇年代初期にかけての白人のピアニストのレコードだった。
レニー・トリスターノからアル・ヘイグ、
あるいはクロード・ウィリアムソン、ルウ・レヴィー、ラス・フリーマン、アンドレ・プレヴィンといったピアニストたちのリーダー・アルバムを僕はこつこつと集めていった。(略)僕はそれらの古く黴臭いレコードが伝える独特のインティメートな空気を愛した。(略)
そしてもう二度とそんなレコードを聴くこともないだろう。」
「 僕は腹を減らせた猫たちのことを思った。(略)
三匹のしなやかな猫がマクベスの魔女みたいに僕の頭を取り囲んで、(略)
彼らの粗い舌先が僕の意識の柔らかな襞をなめた。」
春樹作品といえば随筆ぐらいしか読んだことがないが、海外文学の翻訳物を読んでいるかのような文体だ。
一人称が僕か私か俺か、をオースターやカーヴァー作品を翻訳する際にも気をつける(柴田元幸氏との共著「翻訳夜話」)という春樹さんだが、
この短編はやっぱり「僕」がぴったりだ。
サリンジャーでエズミという人物が登場する作品があったが、イズミという名前もそれからヒントを得たのだろうか?
ヘミングウェイを愛する春樹さんであるが、「雨の中の猫」を少し、思わせる。
森瑶子の「猫」ほど読者にヘミングウェイ作品を強く意識はさせないが、若い女性とかなり年上らしい男性のカップルが異国の地で滞在中だという設定、
女性のほうが猫の存在をより強く意識していて、男性が女性の精神の不安定さに気がついていない?という点が共通している。
猫の挿話や、ズブキのような音楽演奏が聞こえるなどのくだりで、
他の作家がこういう描写をすればもっと不気味な印象を受けるかもしれないが、村上作品ではあまりそういう感覚が無い?のが不思議だ。
春樹さん自身の解説より、抜粋。
「『人喰い猫』は(略)何処にも掲載せずに放っておいた作品である。(略)
時間を置いていつかもう一度書き直そうと思って引き出しに放り込んで、なんとなくそのままになっていたのだが、
全集刊行にあたって大幅に書き直してサルヴェージした。」
なお、Salvageは「 1 廃物利用[回収].2 利用できる廃物. 〈廃物を〉利用する
salvaged wastepaper (古紙の)再生紙」だそうです。
by suezielily
| 2014-06-09 17:53
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