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村上春樹「人喰い猫」(英訳)

村上春樹「人喰い猫」の英訳 “Man-Eating Cat”より、抜粋。
“Man - Eating Cat” written by Haruki Muramkami, translated by Philip Gabriel
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「 港で新聞を買ったら、三匹の猫に食べられてしまった老婦人の話が載っていた。アテネ近郊の小さな町での出来事である。死んだ婦人は七十歳で、ひとり暮らしだった。アパートの一室で、三匹の猫と一緒にひっそりと暮していたのだ。
I bought a newspaper at the harbour and came across an article about an old woman who had been eaten by cats.
She was seventy years old and lived alone in a small suburb of Athens - a quiet sort of life, just her and her three cats in a small one-room apartment.
「 窓もドアもしめっきりになっていたから、飼主が死んでしまうと、猫たちは外に出ることもできなかった。
 (略)あいにく猫には冷蔵庫の扉を開ける才覚はない。それで、すっかり腹を減らせた猫たちは(以下、略)
The windows and the door were closed, and the cats were trapped. There wasn’t any food in the apartment. Granted, there was probably something in the fridge, but cats haven’t evolved to the point where they can open the refrigerators. On the verge of starvation, they ended up devouring their owner’s flesh.」
「 つい二ヵ月前まで、僕は女房と四歳になる息子と三人で、鵜ノ木にある3LDKのマンションに暮していたのだ。」
「私、昔から一度ギリシャに行きたかったの。」
「どこからか数匹の蜂がやってきて、前の客がこぼしていったジャムを忙しそうになめまわしていた。」
「『でもその猫たちはそのあとどうなったのかしら?』(略)『知らない。それについては何も書いてないもの』(略)
‘But what happened to the cats?’
I stuffed the handkerchief back in my pocket. ‘I have no idea. It doesn’t say’.
『私が知りたいのはね』と彼女は(略)言った。『その猫たちが、いったいどんな目にあわされたということなのよ。(略)』
‘What I really want to know,’ Izumi began, the smoke from her cigarette curling silently up into the air, ‘is what happened to the cats afterwards.’ 」
「僕はテーブルの上の蜂をながめながらそれについて少し考えてみた。懸命にジャムをなめつづける勤勉な蜂たちの姿と、老婦人の死体を貪る三匹の猫たちの姿を頭の中でかさねあわせてみた。
I gazed at the bees hovering over the table and thought about it. For a fleeting instant, the restless little bees licking up the jam and three cats devouring the old woman’s flesh became one in my mind. 」
「『私がその話を聞いて思い出すのは、中学に入ってすぐのときに聞かされたカソリックの講話よ。(略)
私がいちばんよく覚えているのは――(略)猫と一緒に無人島に流れつく話』(略)
『船が難破して、あなたは無人島に流れつくの。ボートに乗れたのはあなたと一匹の猫だけ。(略)』」
「 僕らがその人喰い猫の話が載っている新聞を読んだのはそんなころだった。(略)『猫といえば』と僕は人喰い猫の話が新聞に出た何日かあとでイズミに言った。『子供のころに飼っていた猫が、変な消え方をしたことがあるんだ。』(略)『うちで飼っていた三毛猫が庭でひとりで遊んでいた。よく猫がやるだろう、ひとりでぴょんぴょん跳んだりはねたりするやつだよ。猫はすごく興奮していて、僕が見ていることにもまったく気がつかないみたいだった。』」
 「イズミはその話にはあまり興味を抱かなかったようだった。」「『あなた子供のことを考える?』と彼女は僕に訊いた。」
「『あなたの子供は大きくなったらあなたのことをきっとそんな風に思い出すんじゃないかしら』とイズミは言った。『ある日、松の木の上に駆け上ったまま永遠に消えてしまった猫みたいに』」
 「あれはなんていう楽器だっけな?『その男ゾルバ』の中でアンソニー・クインが演奏していたマンドリンに似た形の楽器――ブズキだ。」
「 僕は(略)鵜ノ木のマンションのことを考えた。そこに残してきたレコード・コレクションのことを考えた。僕はなかなか素晴らしいジャズ・レコードのコレクションを持っていたのだ。(略)一九五〇年代から六〇年代初期にかけての白人のピアニストのレコードだった。レニー・トリスターノからアル・ヘイグ、あるいはクロード・ウィリアムソン、ルウ・レヴィー、ラス・フリーマン、アンドレ・プレヴィンといったピアニストたちのリーダー・アルバムを僕はこつこつと集めていった。(略)僕はそれらの古く黴臭いレコードが伝える独特のインティメートな空気を愛した。(略)
そしてもう二度とそんなレコードを聴くこともないだろう。」
「 僕は腹を減らせた猫たちのことを思った。(略)三匹のしなやかな猫がマクベスの魔女みたいに僕の頭を取り囲んで、(略)彼らの粗い舌先が僕の意識の柔らかな襞をなめた。」

なお、この作品を未読の方のために、英訳の掲載部分の日本語の原文をあえて、省略した箇所もある。
猫が描写された部分を抜粋したくて、そうなった。あしからず。

研究社のNew College英和辞書より、
「Devour ━ 【動】【他】Ⅰ 〈動物・人が〉〈食物を〉むさぼり食う, がつがつ食う
devour a sandwich サンドイッチをむさぼるように食べる
Ⅲ 1 〈本などを〉むさぼり読む
He devoured all the books on the subject in the library. 彼は図書館にあるその主題に関する本をすべてむさぼるように読みあさった.
2 〈…を〉食い入るように[穴のあくほど]見つめる
He devoured her with his eyes. 彼は彼女を食い入るように見つめた.
3 〈…に〉熱心に聞き入る
He devoured every word (I said). 彼は(私の言う)一言ももらすまいと聞き入った.
Ⅳ 〈好奇心・心配などが〉〈人を〉夢中にさせる, 悩ませる (注通例受身で用い, 「…に夢中になる, 悩む」の意になる)I am devoured by anxiety. 私は心配でじっとしていられない」
Philip Gabrielの翻訳は「devour」という意味を2、3通りに取れる単語を選んでいるのが面白い。
春樹さんの作品は英訳しやすいのだろうか。彼自身、アメリカ文学の翻訳を手がけてもおられることだし。

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by suezielily | 2014-11-09 18:19 | 猫書籍